子どもの連れ去りで有罪判決

 2025年7月、フランス・パリの裁判所は、元夫の同意なく2人の子どもを日本に連れ去り、フランスに戻さなかった日本人の母親に対し、禁錮2年の有罪判決と親権の剥奪を言い渡しました。日本人の親による「子の連れ去り」に対して、外国の司法が明確に「違法」と判断し、刑事責任を問うた例として注目されています。

 

 

◎事件の概要

 この事件は、フランス人の父と日本人の母の間に生まれた2人の子どもを、日本人の母が父の同意なく日本へ連れ帰り、その後、父と一切面会させなかったことが発端です。

 父親はフランスの司法当局に訴え、母親は「未成年者略取罪」などの罪で起訴されました。判決では、母親は裁判に出廷せず、欠席裁判で禁錮2年が言い渡されました。

 

 

◎ハーグ条約と日本の立場

 この事件は、国際的な子の奪取を規制する「ハーグ条約(国際的な子の奪取の民事面に関する条約)」に深く関係しています。

日本は2014年にこの条約に加盟しており、原則として他国から不法に連れ去られた子どもは、元の居住国に返還しなければなりません。ただし、日本国内では実務上、片方の親が子どもを連れて別居・離婚し、そのまま一方的に親権を持つケースが多く、**「実質的に片親の親権モデル」**が根強く残っています。

 

 

◎なぜ有罪になったのか?

 フランスでは、「共同親権」が原則であり、片方の親の同意なく子を国外に連れ去ることは、刑事犯罪として扱われます。加えて、子どもともう一方の親との交流を一方的に遮断することも、子の権利の侵害とされます。

 つまり今回の有罪判決は、「親権の一方的行使ではなく、相手方との協調なしに国外へ連れ出した」ことへの、厳格な国際的対応を示したものです。

 

 

◎日本の家族法とのギャップ

 日本では、離婚後の親権はどちらか一方のみに与えられ、「単独親権制度」が続いています。そのため、別居後に一方の親が子を実質的に囲い込むような状況が、法的にも事実上黙認されてきました。

この事件は、国際社会から見た「日本の親による連れ去り」の問題性を改めて浮き彫りにしています。

 

 

◎今後どうなるか?

 今後、日本でも共同親権制度が導入されます。今回の事件は、今後の親権・監護権問題に一石を投じる形となるでしょう。

 

 一方で、連れ去り行為が常に悪とは限りません。たとえば、DVから逃れるための別居や子どもの安全確保のための措置など、背景には複雑な事情があるケースもあります。そうした一つひとつの事情に目を向けながら、子どもにとって本当に最善なのは何かを慎重に考える必要があります。

 

 

 

名古屋の弁護士 山口統平法律事務所