はじめに
近年、日本では高齢化が急速に進み、相続をめぐる問題が増加しています。これに対応するため、相続法はいくつかの重要な改正が行われています。今回は、近年改正された相続法のポイントと、高齢化社会がもたらす相続問題について解説します。
1. 配偶者居住権の創設
2018年の相続法改正で、「配偶者居住権」が新設されました。これは、亡くなった人(=被相続人)が所有していた住居に、残された配偶者が引き続き住み続ける権利を保証する制度です。特に、経済的に弱い立場にある配偶者の生活を守るために導入されました。
※具体例
Aさんが亡くなり、預貯金はAの妻、自宅の所有権はAの長男に相続されました。しかし、Aさんの妻(長男の母親)は収入が少なく、新しい住居を探すことが困難でした。配偶者居住権を利用することで、妻は自宅に住み続けることができ、生活の安定が図られました。
2. 特別寄与料の拡大
2019年の改正では、「特別寄与料」の対象が拡大されました。これは、相続人以外の親族(例:介護を担った長男の妻など)が被相続人に対して貢献した場合、その貢献を金銭的に評価する制度です。
※具体例
Bさんは、長年義父の介護を担ってきました。義父が亡くなった後、相続人である義弟たちはBさんの貢献を認め、相続人ではないBさんに特別寄与料として金銭的な補償を行いました。
3. 高齢化社会がもたらす相続問題
高齢化社会では、以下のような相続問題が顕在化しています。
① 相続人がいない「孤独死」の増加
相続人がいない場合、遺産が国庫に帰属する「相続財産法人」の手続きが増えています。この手続きは複雑で、弁護士の関与が不可欠です。
② 認知症と成年後見制度
高齢者が認知症になった場合、成年後見制度を利用して財産管理を行う必要がありますが、後見人の不正やトラブルが問題となっています。
③ 不動産の空き家問題
相続された不動産が放置され、空き家問題が深刻化しています。相続放棄や管理不全による問題が増えています。
4. 遺言書の重要性
相続トラブルを防ぐため、遺言書の作成が推奨されています。特に、2019年の改正により、自筆証書遺言の方式が緩和され、遺言書作成がより身近になりました。
遺言書の種類
自筆証書遺言:自分で手書きする遺言書。自分一人で作成すれば手数料等はかからないが、方式不備で無効になるリスクがある。
公正証書遺言:公証人役場で作成する遺言書。費用がかかるが、確実性が高い。
5. デジタル遺産の相続問題
デジタル化が進む中、SNSアカウントやクラウド上のデータなど、デジタル遺産の相続に関する問題が増えています。事前にパスワードや利用規約を確認し、家族と話し合っておくことが重要です。
まとめ
相続法と高齢化社会の問題は、私たちの生活に直結する重要なテーマです。遺言書の作成や家族間での話し合いを通じて、相続トラブルを未然に防ぐことが大切です。弁護士は、こうした問題に対して専門的なアドバイスを提供し、皆様の安心をサポートします。